梅木さん、オウンド・メディアは社会の役に立たなくちゃいけない。そう。『月刊食品工場長』のようにね。


連載「メディアメーカー」

 

スタートアップに特化した情報や考察を発信するブログメディア、
The Startup編集長の梅木雄平がメディアにまつわる人々を取材し、
メディアの未来を紐解いていく。

中川淳一郎(@unkotaberuno)と僕が出会ったのは2012年春のことだった。

とあるセミナーの講師と受講生として顔を合わせたが、お互いなぜかtwitter上で認知し合っていた。この人は本当にうんこを食べるのだろうか。Twitter上で怖そうな発言をしていて、この日の講師と聞いて僕は受講を躊躇った。何かあったのか、確か僕は彼をtwitterでブロックしていたのだ。

講義の後に彼に挨拶をすると「あの梅木さんですか。飲みに行きましょう」と誘ってくれ、八重洲の居酒屋で盃を共にした。

時は経ち、2014年の春に僕は代々木八幡の公園でビールを飲みながら中川淳一郎に取材することになった。大手ニュースサイトやNEWSポストセブン、その他多数のオウンド・メディアを手掛ける彼にオウンド・メディアの知恵を授けてほしかった。

「いいかい、梅木さん。オウンド・メディアというのは社会の役に立たなければならない。自社のPRは二の次だ。まずは社会の役に立つ情報を発信することが重要なのさ」

企業に務める人はその道における専門家だ。企業はPRするばかりではなく、社会に自社が何を求められるか把握すべきだ。

人間はコンテンツに驚きは求めていない。お約束的なものを見たいのさ。世間が求めるものを出せばいい。みんなが面白いと思ってくれるものは何なのか。僕らはそれを考える必要があるんだ。あるいは、会社に企画を潰すクソな上司がいないこと。それが一番大事なことかもしれない」

たしかに大企業が絡むと僕らが作ったコンテンツは赤字まみれになって返ってくる。リスクを排除し、こんなつまらない記事なら出さない方がマシだと、空き缶を握りつぶすことも少なくない。

「オウンド・メディアを始める時は変に期待しちゃいけない。事前に上司が期待する値を聞き出しておいて、そこを少し上回る数値を目標値とすることが大切なんだ。『まぁ、一記事500PVですかねぇ』とか言っておき、実際には10,000PVを叩きだせば『おいやったじゃないか!』となる。オウンド・メディアを作れば集客できるってほど安易なものではないので、最初に関係者全員の期待値を把握しておくことが重要なんだよ」

オウンド・メディアの効果検証はCPAで見ちゃいけない。

僕は、シー・ピー・エーがき・ら・い・だ。

「ロッテの爽というアイスのオウンド・メディアを半年やったことがあってね。500本記事を出した。それまで『爽』と検索すると1位は爽健美茶だった。アイスの爽は1ページ目のファーストビューでは目に入らなかった。オウンド・メディアの運用を続けていくうちに、やがて『アイスの爽』は検索で1位になった。これは成果的なものと言える」

オウンド・メディアは一時期トレンドとなり、始める企業が増えた。しかし、結果が出なくて予算縮小。外部業者に丸投げする企業も増えてきた。撤退し始めるところも増えている。オウンド・メディアを続けるには良いコンセプトに基づいた良い企画が不可欠だ。どんなメディアのコンセプトが優れていて、社会に求められていているんだろう。

「かつて工場見学の連載を担当していて、よく工場に取材へ行っていたんだが、
月刊食品工場長』という雑誌を複数の工場で見たんだよ。」

月刊食品工場長?

月刊食品工場長

「月刊食品工場長は文字通り工場長を特集する雑誌なんだ。工場長のグラビアとかもあるんだよ。工場長は案外世の中にたくさんいるから、これは規模感的にはちょどよく、切り口も面白い良い雑誌かもしれない」

工場長のグラビア?そこに官能的な匂いは読み取れなかった。

「月刊食品工場長を知ってのことか、『月刊課長』的な雑誌も実はあったんだ。しかし、これはすぐに廃刊してしまった。課長が好きそうな熟女のグラビアとかがあった。でも『課長』は世の中に多すぎるし、色んな年代の課長がいる。さらには、会社の規模によって課長の役割や給料、エラさも全然違う。これは絞り方を間違ったんだろうね」

工場長と課長。紙一重に見えるが、切り口の斬新さと凡庸さを感じる。

「もし俺がオウンド・メディアをやるなら、ビール酒造組合のオウンド・メディアをやりたいね。ビールが大好きだから。ビール酒造組合は5社加盟してるからギャラもちょっぴり多くもらえるかもね、ウヒヒ。。海外への取材旅行も経費で落ちる。最高じゃないか」

中川淳一郎はビールが好きだ。昼間からよくビールを飲んでいる。好きなことなら自分の中から湯水のようにコンテンツが湧き出てくる。オウンド・メディアをやるなら好きなジャンルをやらなければならない。昼間からニコニコしながらビールを飲む中川淳一郎を見て僕はそう思った。

「ということで梅木さん。これでステマ記事をお願いできませんか。この記事を通して、ビールのオウンド・メディア依頼がくるなら安いもんだよ」

年収○千万円を稼ぐ中川淳一郎からすると、数十万円など大したことのない金額なのかもしれない。あるいはこれで本当にビールのオウンド・メディア依頼がくるなら安い投資かもしれない。

ステマか。

そんな時代もあった。

オウンド・メディアは社会の役に立たなくちゃいけない。『月刊食品工場長』はハイパー・ニッチなメディアだ。しかし、工場の稼働率や従業員のマネジメントの仕方、あるいはいかに工場長としての威厳を保つかといった知見が抱負で、工場長に役立つメディアなのかもしれない。

『月刊食品工場長』自体に掲載されることが、工場長の威厳を保ち、工場員たちからの信頼を得る役目を果たしているのかもしれない。ハイパー・ニッチには確実に人を惹き付けるものがありそうだ。

社会が自分たちに求めているコンテンツは何なのか。自分たちがPRしたいコンテンツではなく、何が求められているのか。そしてそのコンテンツはその道のプロである企業人であれば考えられるはずだ。その分野のことが好きで、その仕事に従事しているはずなのだから。

そんなことに想いを馳せながら、やっぱり僕はCPAが嫌いだ。CPAなんてこの世からなくなればいいのにと思いながら、2月の代々木の澄み渡る青空を仰ぎ、帰路に着いた。

プロフィール

中川淳一郎

ライター、編集者、PRプランナー。一橋大学商学部卒業後、博報堂CC局で企業のPR業務を請け負う。2001年に退社し、しばらく無職となったあとフリーライターになり、その後『テレビブロス』編集者に。企業のPR活動、ライター、雑誌編集などを経て『NEWSポストセブン』など様々な、ネットニュースサイトの編集者となる。
著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『ネットのバカ』 (新潮新書) など。

 

著者プロフィール


梅木雄平


The Startup」編集長。慶應義塾大学卒業後、複数のスタートアップ企業での事業経験を経て、独立。スタートアップ業界のオピニオンメディアThe Startup運営の他、東洋経済オンラインへの寄稿も手掛ける。
3月20日に単著「グロースハック」を発売予定。

 


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